飲食店の在庫管理:定数・先入れ先出し・棚卸を忙しい厨房で続けるコツ
飲食店の在庫管理を、忙しい営業の中でも続く仕組みに。定数(適正在庫)と発注点の決め方、先入れ先出し、無理のない棚卸のルーティン、食品ロスを減らす考え方と在庫管理システムの選び方をまとめました。
公開日
飲食店の在庫管理は、突き詰めると三つの問いにいつでも答えられることです。「今なにがあるか」「どこにあるか」「次の納品までになにが必要か」。うまくいく仕組みとは、完璧なExcel表ではなく、ふだんの一週間の中で厨房が無理なく最新に保てる仕組みのことです。
そのために必要なのは、発注する食材ごとの目安となる在庫量、古いものから使う保管の習慣、そして営業の合間に収まる棚卸です。この記事では、それぞれの考え方と、飲食店向けの在庫管理システムを選ぶときの基準、そして紙やExcelのままで十分なケースを順に紹介します。
飲食店の在庫管理が担う役割
飲食店の在庫は、同時に四つの役割を担っています。よい仕組みはそのすべてを支えます。
- 営業を止めない。 最後のトマトを火曜日に使い切ったことに誰も気づかず、ディナーの途中でメニューが欠ける、という事態を防ぎます。
- 発注を早く終わらせる。 発注担当者が、記憶や勘ではなく数えた数字から発注を始められるようにします。
- ロスを抑える。 棚の奥で傷んでしまう食材は、そのまま利益の損失です。
- 何が起きたかを残す。 数字がおかしいときに、誰がいつ変えたのかを推測ではなく記録で確かめられるようにします。
食材の在庫管理が倉庫の在庫管理より難しいのは、生鮮品が多く、一日に何度も動き、多くの人が触るからです。仕込み担当もいれば、ドリンク用の牛乳を取りに来るホールスタッフもいます。
厨房の在庫記録が続かない理由
飲食店の在庫記録が崩れるのは、スタッフがいい加減だからではありません。記録する手間が、作業そのものより大きいからです。
冷蔵庫の扉に貼った紙の在庫表は、その前に立っている人にしか役に立ちません。事務所のパソコンのExcelは、誰かが座って入力する時間ができたときにしか更新されず、厨房ではそれがなかなか来ません。数字は実物とずれていき、誰も信用しなくなり、発注はまた記憶頼みに戻ります。
解決策は「もっと徹底する」ことではありません。在庫のすぐそばで、いつも持っている端末から、数秒で記録できるようにすることです。オーツミルクを1ケース使ったときの記録がワンタップで済むなら、記録は残ります。ログインして入力フォームを開く必要があるなら、営業後に回され、そのまま忘れられます。
発注する食材には定数と発注点を決める
定数(適正在庫) とは、納品直後に棚にあってほしい量のことです。次の納品までに使う量に、少しの余裕を足したものです。発注点 はそれより低い水準で、「次の発注に入れるべき」というサインになる量です。
決め方は、原則としてシンプルです。
- ふだんの週に、納品から次の納品までにその食材をどれだけ使うかを確認します。
- 忙しい日や納品の遅れに備えた余裕を足します。
- その合計が定数です。発注が間に合うだけの余裕を残して、それより低い発注点を決めます。
まずは、切らすと困るものや原価が高いものから始めます。肉や魚、乳製品、コーヒー豆、テイクアウト容器などです。スパイスの小瓶一つひとつにまで定数は要りません。メニューや季節が変わったら、定数も見直しましょう。
定数と発注点があれば、発注はほぼ自動的に決まります。発注点を下回った食材について、定数までの差分を発注すればよいのです。
食材は先入れ先出しで保管する
先入れ先出し(FIFO) とは、古い在庫から先に使うことです。食品ロスを減らすうえでもっとも効果のある習慣で、ソフトウェアではなく棚の上で実践するものです。
- 新しく納品されたものは、既存の在庫の奥に置き、手前には置きません。
- 開封したものや仕込んだものには、開封日・仕込み日を書いたラベルを貼ります。
- 食材ごとに置き場所を一か所に決め、古い在庫が別の場所に隠れないようにします。
- 棚卸のときに消費期限を確認し、期限が近いものは手前に移します。
在庫管理システムは、保管場所ごとの在庫を見える化することで先入れ先出しを支えます。同じ食材が二か所に分かれて置かれていれば、すぐに気づけます。日付そのものは、容器を手に取る調理スタッフが見えるよう、ラベルに残しておきます。
営業の合間に収まる棚卸のルーティン
棚卸は、決まった日に、決まった時間で終わってこそ意味があります。全品を一度に数えるのではなく、頻度で分けましょう。
| 数えるもの | 頻度 | 理由 |
|---|---|---|
| 高単価・回転の速いもの(肉、魚、乳製品、コーヒー豆) | 毎日、またはシフト交代ごと | 原価への影響が大きく、切れるのも早い |
| 日持ちしない生鮮品 | 発注の前に毎回 | 先週の数字ではなく今の在庫で発注するため |
| 乾物・包材 | 毎週 | 動きが遅く、日持ちもする |
| 洗剤・消耗品 | 毎月 | リスクは低いが、切れると困る |
| すべて | 月末・期末 | 全数を数えて記録をリセットする |
棚卸を速く、ぶれなく進めるためのルールもいくつかあります。
- 毎回同じ順番で数える。 棚ごとに順に回れば、数え漏れが出ません。
- 食材ごとに単位を決める。 ケース、袋、本、人前など、単位をアイテム名や説明に書いておけば、誰が数えても「2」の意味が同じになります。
- 納品物を片付ける前に数える。 片付けの途中で数え始めないようにします。
- 数えた数をそのまま記録する。 差分を手で計算しないようにします。
数えた数と記録がずれていたら、それを情報として扱いましょう。特定の食材でいつも差が出るなら、記録されていない使用、仕込みロス、あるいは盛り付け量のばらつきが原因であることが多いものです。
食品ロスの削減は、見える棚から始まる
厨房のロスの多くは、使う量より多く発注してしまうことか、在庫が忘れられて傷んでしまうことから生まれます。どちらも「見えていない」ことが原因です。
定数は発注に上限を与えるので、発注しすぎを防ぎます。先入れ先出しと整理された保管は、忘れられる在庫を防ぎます。定期的な棚卸は、いつも余っている食材を浮かび上がらせ、定数を下げるきっかけになります。
仕込んだ料理を廃棄したときも、使用として記録し、理由を厨房の記録に残しておきましょう。数週間もすれば傾向が見えてきます。毎週月曜に同じ付け合わせを捨てている、平日には多すぎる量でソースを仕込んでいる、といった具合です。
飲食店向け在庫管理システムの選び方
どのツールを選ぶにしても、「スタッフが最新の状態を保ち続けられるか」で判断しましょう。機能の多さより、次の基準のほうが大切です。
- スマートフォンやタブレットから、棚の前でワンタップ・ツータップで更新できる。
- 保管場所ごとに在庫を持てる。 冷蔵庫、冷凍庫、乾物庫がそれぞれ何を抱えているかがわかります。
- 在庫が少なくなったときの通知が、発注する人に届く。 誰も開かないレポートだけでは足りません。
- チーム全員が同じ最新の数字を見られる。 朝番と夜番で数字が食い違いません。
- 変更履歴が残る。 誰がいつどの数量を変えたかがわかります。
- 数えやすい。 棚や商品のラベルをスキャンして数えられると理想的です。
- 実際の在庫で無料で試せる。
レシピ原価計算、ロットごとの賞味期限管理、仕入先への発注、POSレジとの連携が必要なら、それらは個別に確認してください。対応していない在庫管理ツールも少なくありません。
紙やExcelで十分なケース
発注を一人がすべて担当し、メニューが少なく、保管場所が一か所なら、紙の棚卸表やExcelで十分です。その人がいつも店にいて、記録を最新に保ち、ほかの誰も数字を必要としないなら、ツールを導入するほどではないかもしれません。
紙やExcelでは足りなくなるのは、複数の人が在庫を使ったり受け取ったりするとき、冷蔵庫や倉庫、店舗が複数あるとき、発注する人と数えた人が別のとき、そして数字が変わった理由がわからなくなったときです。
Tanaでできること
Tanaはチームで使う在庫管理アプリで、厨房運営のうち「在庫を記録し、共有する」部分を担います。
- 厨房に合わせてストレージを作れます。ウォークイン冷蔵庫、冷凍庫、コールドテーブル、乾物庫、バー、包材棚などです。在庫はストレージごとに記録され、アイテムの合計はその和になります。複数店舗なら、店舗ごとの住所をロケーションとして持てます。
- iPhone、iPad、Mac、Webアプリから、使ったら −、納品されたら + をワンタップで記録できます。棚卸では = で数えた数をそのまま設定できます。冷凍庫から仕込み用の冷蔵庫へ、といったストレージ間の移動もできます。
- アイテムごとのアラート閾値を発注点として設定できます。残りわずかになるとホーム画面、メール、プッシュ通知で知らせ、Slackのチャンネルにも投稿できます。定数や仕入先は、アイテムの発注メモに書いておけます。
- 棚やアイテム用のQRラベルを印刷したり、商品のバーコードをアイテムに登録したりして、カメラでスキャンすれば該当のアイテムが開きます。
- すべての変更は履歴に残ります。誰が、いつ、どのストレージで、どの数量を変えたかがわかります。
- 納品日に合わせて入荷を予定し、当日にリマインドを受け取れます。在庫はCSVで書き出して、棚卸表や経理向けの資料に使えます。
Tanaは賞味期限やロットの管理、レシピ原価計算、発注書の作成、POSレジとの連携には対応していません。日付は引き続き容器のラベルで管理してください。Tana上で目印がほしい場合は、タグやアイテムの説明で「日付確認が必要」と示しておく方法があります。クレジットカード登録不要の無料プランがあり、有料プランはチーム単位です。
よくある質問
飲食店の棚卸はどのくらいの頻度で行うべきですか?
高単価で回転の速い食材は毎日かシフト交代ごと、生鮮品は発注の前に毎回、乾物は毎週数え、月末や期末には全数の棚卸を行うのが目安です。
定数と発注点の違いは何ですか?
定数は納品直後に棚にあってほしい量、発注点は「発注しよう」と判断する低い水準の量です。在庫が発注点まで減ったら、定数に戻る分を発注します。
飲食店の在庫管理はExcelでもできますか?
一人が一か所の在庫と発注をすべて担当しているなら可能です。複数の人が複数の保管場所で在庫を扱うようになったら、スマートフォンから更新できる共有アプリのほうが正確さを保ちやすくなります。
Tanaで賞味期限は管理できますか?
できません。Tanaが記録するのは、ストレージごとの数量と、その履歴、在庫が少なくなったときのアラートです。日付は容器のラベルで管理し、棚では先入れ先出しを徹底してください。タグやアイテムの説明で、日付確認が必要なアイテムに目印を付けることはできます。